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熊本簡易裁判所 昭和32年(ハ)1133号 判決

原告

右代表者法務大臣

唐沢俊樹

熊本市大江町九品寺

熊本地方法務局

右指定代理人法務事務官

新盛東太郎

同市花畑町熊本国税局

大蔵事務官 黒田守雄

同市古城堀端町百十一番地

被告

友添政雄

右当事者間の昭和三十二年(ハ)第一一三三号賃貸料請求事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

被告は原告に対し金四万一千八百円を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告指定代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として訴外亀井国松は、昭和二十八年度分所得税四十八万九千六百円同無申告加算税十二万二千二百五十円、同重加算税二十四万四千五百円、昭和二十九年度分所得税三十一万五千二百二円、同無申告加算税十二万五千円、同重加算税二十五万円、合計金百五十四万六千五百五十二円の国税を滞納していたところ、熊本国税局収税官吏は、右国税を徴収するため、昭和三十一年八月八日、右訴外人所有の熊本市古城堀端町百十一番地の一宅地三十坪二合一勺、同所同番の一家屋番号同町百六十五番の二木造瓦葺平屋建住家一棟十三坪八合七勺を国税滞納処分により差押え、翌九日その旨を右訴外人に通知した。しかして右差押えの効力は国税徴収法第十八条により右訴外人が前記建物につき収受すべき法定果実に及ぶものであるところ、右訴外人は昭和三十年十一月三十日右建物を、賃料月額金千九百円毎月末日払の約をもつて、被告には賃貸していたので、熊本国税局収税官吏は昭和三十二年五月二十八日、被告に対し、右建物を差押えた旨及びこれに対する賃料はこれを原告に支払われたき旨を通知し、該通知はその頃被告に到達した。なお、右差押の日以前に弁済期が到来していた賃料債権(昭和三十年十二月分から昭和三十一年七月分までの賃料合計金一万五千二百円)については、熊本国税局収税官吏は、前記国税を徴収するため、さらに国税滞納処分による差押をなし、その旨を第三債務者たる被告に通知し、該通知は昭和三十二年六月一日被告に到達した。よつて被告に対し、右建物に対する昭和三十年十二月分以降昭和三十二年九月分まで一カ月につき金千九百円、合計金四万千八百円の賃料の支払を求めるため本訴に及んだ。と述べ、被告の抗弁事実を否認し、立証として甲第一乃至第十号証を提出し証人磯谷安政同神田清秀の各証言を援用し乙第四、五号証の成立を認める。その余の乙号各証は不知、乙第五号証はこれを利益に援用する。と述べた。

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、原告主張事実中、被告が原告主張のとおり建物を賃借していること及び原告主張のとおりの通知を受けとつたことは認めるが、訴外亀井国松の国税滞納の事実及び同人に対し国税滞納処分による差押がなされたことは不知、その余の原告主張事実は否認する。被告は右差押の通知以前、すでに、昭和三十二年五月分までの賃料を訴外亀井国松の依頼によつて、同人の債権者である訴外中山勝に支払つているから、原告の請求に応じがたい。と述べ、立証として乙第一号乃至第五号証(乙第二号証は同号証の一乃至十一)を提出し、証人中山勝の証言を援用し、甲第四乃至第七号証、甲第九号証の各成立を認める。その余の甲号各証はいずれも不知、と述べた。

理由

被告が訴外亀井国松から、その所有にかかる熊本市古城堀端町百十一番地の一所在、家屋番号同町百六十五番の二、木造瓦葺平家建住家一棟建坪十三坪八合七勺を、昭和三十年十一月三十日、賃料月額金千九百円毎月末日払の約をもつて賃借していることは当事者間に争がない。

しかして、公文書であるからその成立を認むべきである甲第一、二、六、各号証によれば、訴外亀井国松は原告主張のような国税の滞納をなし、熊本国税局大蔵事務官田中貢は、右滞納金額を徴収するため、昭和三十一年八月八日国税徴収法による滞納処分として、右建物を差押え、同月九日その登記をなしたことを認めることができ、また公文書であるからその成立を認めるべきである甲第四号証によれば、熊本国税局大蔵事務官磯谷安政は、前記滞納金額を徴収するため、昭和三十二年五月二十八日昭和三十年十一月三十日付家屋賃貸借契約にもとずき被告が訴外亀井国松に支払うべき同年十二月分以降昭和三十一年七月分までの家賃金債権を差押えたことを認めることができる。そして右建物を差押えたにつき賃料を原告に支払われたい旨の通知及び債権差押の通知がそれぞれ昭和三十二年六月一日頃被告に到達したことについては当事者間に争がない。

被告は右の通知を受ける前に、すでに賃料債務を弁済ずみであると抗弁するけれども、証人中山勝の右主張にその趣旨の証言部分及び同証人の証言によつて成立を認めうる乙第二号証の一乃至十一は、証人磯谷安政の証言及同証人の証言によつて成立を認めうる甲第三号証と対比してたやすく措信しがたく、そのほか右被告主張事実を証するに足る証拠がないから右抗弁は採用しない。

そうだとすると、訴外亀井国松の建物及び債権に対する前示国税滞納処分の結果として、被告は昭和三十年十一月三十日の家屋賃貸借契約にもとずき右建物について支払うべき同年十二月分以降昭和三十二年九月分までの賃料合計金四万千八百円を原告に支払うべき義務があることが明らかであるから、原告の本訴請求を正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小島強)

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